子供の飲み込む力が危ない!忍び寄る嚥下力低下の深刻な実態
飲み込む力の低下が将来の健康と歯並びを左右する
子供の嚥下力 (えんげりょく=飲み込む力) に関連して、2024年2月に福岡で起きた悲しい痛ましい事故がありました。
小学校の給食中に、小学校1年生の児童がうずらの卵を喉に詰まらせ、窒息死してしまった事故です。
この事故は、嚥下力の発達不足や誤嚥のリスクについての重要性を再認識させるものでした。
事故防止に向けて…
この事故をきっかけに、教育委員会や保護者間で、給食メニューの見直しや、誤嚥防止策の強化が進められました。
固いものや丸い形状の食品の提供方法を見直すだけでなく、子供たちの嚥下力に合わせた食事指導が必要だという認識が広まりました。
嚥下力の重要性
「よく噛んで食事をすること」 「食品の提供方法」
は、もちろん重要です。
しかし、窒息死亡事故に至った根本的な原因は解決されません。
誤嚥のリスクを回避するためには、嚥下力 (えんげりょく) が必要不可欠です。
嚥下力とは、食べ物や飲み物を安全に喉を通して胃へ送り込むための能力=飲み込む力のことです。
子供の嚥下力は個人差があり、成長段階によって未熟な場合もあります。
嚥下がうまくできないと、食べ物が気管に入ってしまい、誤嚥や窒息のリスクが高まります。
それは、単に食べ物の大きさや形状だけが問題ではありません。
嚥下力の低下は、「食べづらい」といった問題にとどまらず、命に関わる深刻な事態を引き起こします。
子供の嚥下力の低下が引き起こすリスクとデータ
日本国内では毎年、食品を喉に詰まらせて窒息する子供の事故が報告されています。
特に、固形物や噛み応えのある食べ物(お餅や噛みにくい食べ物)が要因となり、幼少期の子供たちに大きな危険を及ぼしています。
2020年の厚生労働省の調査によれば、食物による窒息事故は年間数百件報告され、そのうち約20%が小児の事例です。
嚥下力低下の原因とは
子供たちの嚥下力が低下する背景には、
現代の食習慣が大きく関わっています。
柔らかい食べ物や、噛む必要のない食品を多く摂取することで、咀嚼や嚥下に必要な筋肉が発達せず、飲み込む力が低下します。
これにより、食べ物を飲み込む際にむせる、または誤って気管に入るというリスクが高まるのです。
給食の時間に何度も食べ物を詰まらせたという事例や、日常の食事で常にむせる子供の報告が増加しています。
このような習慣が続けば、さらに深刻な嚥下障害や呼吸困難を引き起こす恐れがあります。
嚥下力の低下が引き起こすさらなる問題
嚥下力の低下は、食事中の危険性だけでなく、その他の健康問題も引き起こします。
・食べ物をしっかりと飲み込めないことによる栄養摂取の影響
食べ物をしっかり噛んで飲み込まないと、胃で吸収されにくく、成長不良や栄養失調に陥る可能性があります。
・誤嚥性肺炎などの深刻な合併症を引き起こすリスク
特に幼い子供にとっては命に関わる問題となります。
・嚥下力の低下は心理的な悪影響
食べることに対する恐怖や不安が高まり、食事の時間を楽しむことができなくなるばかりか、食事自体を避けるようになってしまうこともあります。
子供たちの健やかな成長を守るためには、日常生活での食習慣の見直しや、嚥下力を鍛える訓練を積極的に取り入れることが必要です。
子供の飲み込む力(嚥下力)が低下している原因
それではなぜ子供の飲み込む力が低下しているのかというと、現代の食生活や生活習慣の変化が大きく影響しています。
以下に、主な原因をいくつか挙げて説明します。
1. 柔らかい食べ物の増加
現代の食事では、噛む必要が少ない柔らかい食材が増えています。
例えば、柔らかいパンや、加工された食材など、噛む力をほとんど必要としない食べ物が多く出回っており、これが子供の咀嚼力や嚥下力の発達を妨げています。
本来、硬いものを噛むことで鍛えられるべき顎の筋肉や喉の筋肉が弱くなり、飲み込む力が低下する傾向にあります。
2. 咀嚼回数の減少
噛む回数の少ない食事は、唾液の分泌を減少させ、食べ物を飲み込む際に必要な滑りやすさが確保されにくくなります。
これは、現代の速食文化や食事の時間が短縮される傾向と関連しています。
忙しい現代人にとって食事時間の確保も必要なこととされます。
噛む回数が少ないと、嚥下力を支える筋肉の力が不足し、長期的には飲み込む力が低下してしまいます。
3. スクリーンタイムの増加と姿勢の悪化
スマートフォンやタブレットなどのスクリーンを見る時間が増えると、姿勢が悪くなる傾向があります。
特に、頭が前に突き出る「前傾姿勢」は、飲み込みのメカニズムに悪影響を与えることが知られています。
頭を前に突き出した状態では、喉の筋肉が正常に機能せず、嚥下力が低下しやすくなります。
4. 口呼吸
鼻ではなく口で呼吸をする「口呼吸」も、嚥下力の低下に大きく関与しています。
口呼吸をする子供は、常に口が開いた状態で生活することが多く、口周りの筋肉が弱くなり、結果として飲み込む力も低下します。
さらに、口呼吸は口腔内を乾燥させ、食物を飲み込みにくくするため、嚥下障害の原因にもなります。
口呼吸の記事についてはこちら
>>お子さん、鼻呼吸をしていますか?鼻呼吸のメリットと子供と歯並びの影響について
5. 過剰な早期離乳
離乳食の与え方やタイミングにも注意が必要です。
過剰に早い段階で柔らかい離乳食や液体状の食事を与えすぎると、子供はしっかりとした咀嚼や嚥下の経験を得ることができません。
結果的に筋肉が十分に発達しないまま成長してしまいます。
6. 運動不足
全身の運動不足も、嚥下力低下の要因のひとつです。
特に、首や肩、喉の筋肉は全身の筋肉と連動しているため、運動不足によって筋力が弱くなると、嚥下の機能も低下します。
これらの原因により、子供たちの飲み込む力は年々低下傾向にあると指摘されています。
このことから、歯科医師は、嚥下機能の改善を目的としたトレーニングや治療法を推進しています。
子供の食事や呼吸の習慣、姿勢などに注意を払うことで、嚥下力の低下を予防し、子供の健康を守ることができます。
早期対応が不可欠
嚥下力の低下は、単なる食習慣の問題ではなく、早期に対処しないと命を脅かす問題に発展することがあるため、予防策が必要です。
子供が食事中にむせる、飲み込みづらそうにしているといった兆候を見逃さないようにして、早めに専門家に相談することが重要かもしれません。
参考文献
•厚生労働省「食べ物による窒息事故の現状」
•日本嚥下障害学会「嚥下障害のリスクファクター」
嚥下と歯並びの口腔機能の関係
正しい歯並びは効率的な嚥下の動作をサポートします。
歯並びが悪いと、
・食べ物をしっかりと噛むことが難しくなり、嚥下に必要な筋肉が正しく発達しない。
・飲み込む時に噛み合わせや舌の動きが上手にできず、嚥下力が低下することがある。
さらに、嚥下力が下がると、食べ物を飲み込むために舌や他の筋肉が過度に働き、口腔内の筋力バランスが崩れてしまい、歯並びも悪くなるのです。
つまり、歯並びが悪いと嚥下力が低下し、逆に嚥下力が弱いと歯並びがさらに悪化するという悪循環が生じます。
食べることは生きること
飲み込む力を育てるには?
嚥下力を鍛えるためには、口腔機能を向上させるトレーニングなどが推奨されています。
Konohaこどもの歯ならびクリニックでも、行っている嚥下力向上のお口のトレーニングがあります。
小児矯正治療を行う中で
飲み込む力の向上は、歯並びの改善にも非常に関係がある
と感じています。
歯の位置を整うことで嚥下時の舌や顎の動きがスムーズになり、嚥下力が向上するでしょう。
また、日常的な生活習慣を見直し、口呼吸を鼻呼吸に改善することや、適切な食事姿勢を取ることも嚥下力の向上に役立ちます。
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